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2011年度 稲門建築会の活動予定

2016年度の活動

12/13 (土) 実践学園自由学習館 見学会のご報告

1 月16 日(月) 齊藤祐子氏講演会のご報告

2017年1月16日(月)18時半より、西早稲田キャンパス62 号館にて齊藤祐子氏による講演会が行われました。参加者は学生、OBの方々などあわせて90名を超え、大盛況でした。

齊藤祐子さんは早稲田大学建築学科卒業後、U研究室に入室し、吉阪隆正に師事した最後のお弟子さんです。吉阪先生が還暦60歳のときから4年弱の間、U研究室で一緒に仕事をされていたそうです。40年間にわたって吉阪隆正の書籍等をまとめ続けたために、吉阪先生の作品とその根底にある考えにいたるまで熟知されている方であるともいえます。今回は、吉阪隆正先生の生誕100 年と、代表作といえる「大学セミナー・ハウス」の開館50 周年の節目に、吉阪隆正の建築作品を辿りながら、現代も生きる吉阪先生の言葉をお聞かせいただくべく、本講演会を開催いたしました。

冒頭に、齊藤祐子さんは吉阪先生について、「国籍不明で年齢もわからない、地球のスケールを持った人」であると表現していらっしゃいました。これはどういうことだろうか、と、とても興味を惹かれるかたちでお話が始まりました。

最初のお話の中で、「大地はみんなのものであり、住居は個人の自由と集団の利益との境界線の存在であらねばならない」という吉阪先生のお言葉がありました。
そのような理念がよく表れている代表作として、認知症患者のグループホームがあります。1人ひとりの個室という領域がある上で、少人数で共有する領域があり、さらにそれらが重なる領域として食堂があり、全体と接するように中庭がある、というように、領域がいくつも重なり合っている構成になっています。
また、この理念をさらに噛み砕くようにして、U研究室では、「人と人が出会う場所をどう作っていくか」ということを大事にしていたそうです。呉羽中学校では、各教室の中心にホールを設けて1学年が1つの棟で集まり、さらに3棟の中心に中庭を設け、どの教室のベランダからも全体を見渡せるような開放的な空間が1950年代のうちに設計されていました。セミナーハウスにおいても、様々な人数規模のユニットで宿泊棟や講堂の空間を設け、それを大地と呼応させるように緩やかにつないでいく設計がされていました。
これらにおいて、人が段階的に出会うように考え、1つのまちつくりのように建築をつくることを意識していたそうです。

一方で、このような空間づくりの際には、集団で設計することを大事にしていたとおっしゃっていました。
セミナーハウスの象徴ともいえる楔形の本館は、実は模型が何かの拍子にひっくり返ったときに偶然生まれた形だそうで、「これはいける」という感覚をみんなで共有したことが、本館が現在のかたちになる大きな力になったそうです。
ある形を発見するために模型をつくり、手を動かし、議論する、というやり方で色んな人が関わって時間をかけて行う設計のあり方は、建築がまちのなかで段階的に人と人をつないでいくあり方と共通する部分があると感じました。

冒頭の「(吉阪先生は)国籍不明で年齢もわからない、地球のスケールを持った人」という斉藤祐子さんの表現について、私個人としては、「吉阪のつくる、人種や年齢にとらわれない多様なコミュニケーションの空間とそれを生み出す吉阪自身の設計姿勢」がそのような吉阪隆正像を導いているのだと思いました。

吉阪隆正の強い理念が終始伝わる、会場の熱の高まりが感じられる会となりました。
お忙しい中、貴重なお話をしてくださった斉藤祐子さん、そして参加者の皆様に心よりお礼申し上げます。

(稲門建築会事業委員会学生理事 藤井真麻)

12/13 (土) 実践学園自由学習館 見学会のご報告

1 月16 日(月)齊藤祐子氏講演会「吉阪隆正100 年、大学セミナー・ハウス50 年」のお知らせ

2017年度 稲門建築会第1回講演会
「吉阪隆正100 年、大学セミナー・ハウス50 年」

開催日時: 2017 年1 月16 日(月)18 : 30 ~(18 : 00 開場)
場所: 早稲田大学西早稲田キャンパス62 号館1 階大会議室
申込不要・入場無料
講師: 齊藤祐子氏(元U研究室所属、2015 年 稲門建築会 特別功労賞受賞)

講演概要:
2017 年は吉阪隆正先生(1917~1980 年)生誕100 年にあたります。また、代表作といえる〈大学セミナー・ハウス〉は2015 年に開館50 周年を迎えました。学生時代に今和次郎の弟子として生活学をこころざし、戦後はル・コルビュジエのアトリエで修行し建築
家として歩み始めた吉阪の建築作品を辿りながら、モダニズム建築の見直しとともに現代も生きる言葉にふれたいと思います。

【齊藤祐子氏略歴】
1954 年 埼玉県浦和市(現さいたま市)生まれ
1977 年 早稲田大学理工学部建築学科卒業後、U研究室入室、吉阪隆正に師事
1984 年 七月工房、1989 年 空間工房101 を共同で設立
1995 年 サイト 一級建築士事務所に改組

11月22日(火)東京都庭園美術館見学会のご報告

11月22日(火)16時より、白金台にある東京都庭園美術館の新館・本館の見学会が行われました。学生5名、OBが19名の、合わせて24名が参加し、非常に実りある見学会となりました。
この美術館は、朝香宮邸として建設され戦後まで使用されてきたアールデコ様式の本館と、新たに建設された新館から構成されています。本館は設備劣化に伴う改修、新館は管理棟としての建て替えのために施工が行われました。これらは久米設計により修復・復原・新館の設計が行われ、今回の見学では美術館のアウトライン、本館、新館の順番で久米設計の安東直氏によって説明が行われました。

様々な意匠が凝らされた本館に加えて、新たに増築された新館はガラスがゆらめく入り口のアプローチや、広い空間を有する展示室などで構成されています。その中でも、ロビーの天井に用いられているPC床版は構造材の役割と意匠デザインを兼ねたものとなっており、特徴的な空間となっていました。また、見学会が終了する時間帯には、暗闇の中に天井の照明が浮かび上がり幻想的な空間へと変化していました。ここで用いられているコンクリートは、日本でよく見られる黒色系のコンクリートとは異なり白色系のコンクリートとなっていて、この空間・雰囲気を形成する一端を担っています。

さらに、白金台という周囲の環境に馴染むような外装や敷地周辺の樹木に対する日影規制など、この場所ならではのコンテクストによって影響された部分や、歴史的建造物ゆえに材を固定するのではなく何かあった時に外せるような工夫を凝らすなど、他の建築とは大きく異なる部分が多くあったことも印象的でした。しかし、それらの様々な工夫によって、歴史的建造物と新たな建築が共存し、「庭園美術館」というひとつの建築がつくられているように感じられました。

近代建築が歴史的建造物として保存されていく時代へとなっている現在において、このような近代建築の改修と新たな建築の共存はこの先においても増えていくと思います。建築史分野を専攻する私にとっても、その一例として今回の見学会は非常に勉強になるものとなりました。また、保存という行為に対する知識・理解をさらに深めていきたいと考えるきっかけにもなりました。

今回、このような貴重な機会を与えてくださった安藤直さんに心より感謝申し上げます。

(稲門建築会事業委員会学生委員 添田菜月)

11月5日(土)・6日(日) 理工展のご報告

11月5日(土)、6日(日)の理工展にて、早稲田を卒業した著名な建築家の作品・図面を収集し、見開きA2版の大きさに装丁した「稲門建築ライブラリー」の図集を、公開しました。今年度も、早稲田建築OB・OGの方、小さいお子さんを連れた家族の方、高校生など、多世代の多くの方に訪れていただき、2日間にわたって大盛況でした。

理工展での「稲門建築ライブラリー」の公開は一昨年よりはじまり、普段一般公開されていない稲門建築ライブラリーをどのように活用していけばよいか考えてきました。色々な意見があるなかでも「電子アーカイブ化されれば、必要な箇所を印刷して閲覧できるので大変ありがたい」という意見をうけ、現在では図面の電子アーカイブ化が少しずつ実現されており、最近編集されたものについては稲門建築会のHPから閲覧可能になっています。

そのような進化を遂げている稲門建築ライブラリーの企画に加え、今年度は学生企画として、事業委員会の1年間の活動をまとめたパネルの展示と藤森照信氏の作品「高過庵」の模型展示を行いました。

2016年6月に藤森照信氏の講演会「自然を活かした建築のつくりかた」を行いましたが、学生からの反響がとても大きく、藤森先生の人気は、建築からにじみ出る手作り感にある、と私たちは考えました。現代建築の施工の効率性ばがりを重視した建築に対し、学生は少なからず疑問を持っているのではないか、と感じ、「自らの手で」「自然を活かしてつくる」藤森先生の建築の魅力や可能性を伝えたいと思い、藤森先生の建築作品を模型展示するという企画を理工展に出展しようと考えました。

学生委員一同で夏休み中に長野県茅野市にある「高過庵」「泥舟」「神長官守矢史料館」に行き、実際の建築作品を見学させていただきました。スケッチやディテールの観察を通し、より実物に近い「手作り感」が伝わるよう、試行錯誤を重ねて模型を制作しました。理工展には建築を専門としない方も多く来訪されたため、少しでも建築に興味を持ってくださった方がいらっしゃれば嬉しく思います。

今回、このような貴重な発表の機会をいただけたことに深く感謝いたします。また、作品見学をさせてくださった、藤森先生、藤森研究室の小渡さん、藤森政勝さん、神長官守矢史料館の柳川さん、会場に足を運んでくださった皆様に心よりお礼申し上げます。

(事業委員会学生理事 藤井真麻)

建築学会九州大会の報告

日本建築学会全国大会2016 稲門建築会懇親会in九州のご報告
               稲門建築会九州支部長 金岡伸幸
               稲門建築会九州支部事務局長 水野 宏

8月24日から、日本建築学会全国大会が福岡で開催されるにあたり、恒例の稲門会の懇親会を開催いたしました。メルマガや本部事務局のご協力もあり、本部会員18名、学生会員27名、九州支部会員30名の総勢75人の参加により盛会であったことをご報告いたします。参加された多くの方々から、挨拶、思い出、近況報告などしていただき、楽しい中にも中身の濃い意義のある会になりました。
また、九州支部ではこの機会に「九州の稲門建築」という冊子を製作し、そのお披露目をいたしました。九州出身の偉大なる大先輩である、村野藤吾先生と菊竹清訓先生を巻頭に、九州支部の黎明期に九州を拠点に活動された先輩方、そして現在、九州で活躍されている稲門の皆様をご紹介する冊子です。建築設計のみならず、施工で活躍している方々、街並み保存で活躍される方々、そして、この冊子で特徴的なのは、建築学科以外の出身でありながら、建築の設計・施工を支える分野で活躍している方々もご紹介していることです。
この冊子の製作を通して、早稲田建築一期生、徳永庸氏、二期生中村鎮氏の作品が九州に現存していることを確認できたことも大きな成果です。残念ながら限られた紙面の中で、十分な記述ができておりませんが、改めて、次の機会にご報告ができるようにしたいと思います。この冊子にも、すでに現存しないものがあり、また、存続の危機に瀕しているものもあります。当日の懇親会でも、その保存のために稲門建築会が一致団結して取り組むことが確認できました。時間と空間を超えてこの地で多数の会員の皆様と楽しく交流できたことは本当に大きな成果です。ご支援、ご協力いただきました方々、ご参加いただきました方々に改めて御礼申し上げます。

7/16 (土) 旧山口萬吉邸見学会のご報告

7月16日(土)10時半より、東京九段にある旧山口萬吉邸の見学会が行われました。学生7名、OB30名、合わせて37名の参加がありました。
旧山口邸は、稲門建築会OBの田村裕子さんのご実家であり、施主である山口萬吉氏は裕子さんの祖父にあたるそうです。今回の見学会は、このお宅で生まれ育った裕子さんに、ご家族で暮らしていた頃のエピソードとともに、建築的見どころについてお話しいただく形で進行していきました。

 旧山口邸は関東大震災後の1927年に、木子七郎氏の意匠設計、内藤多仲氏の構造設計によりつくられました。昨年見学会を行った、両者の設計による内藤多仲邸とほぼ同時期に建てられています。内藤邸同様、日本最初期の壁式鉄筋コンクリート造の住宅です。意匠設計は、木子氏の手によるスパニッシュデザインが、戸や窓、壁面など全体から、幅木や唐草模様の飾り、モザイクタイルなどの細部までに施されています。

 この建築は、地下1階から3階まであり、1・2階は家族の部屋と来客の部屋に、地下と3階は使用人と子どもの部屋となっていたそうです。1階の玄関にロビーが続き、白い大階段と噴水、上窓から差し込む光が客人を迎え入れます。そして、ロビーから客間と家族の空間へと続きます。客間は革製の椅子や細工の凝らされた木製机や鉄製のランプなどの調度品に囲まれ、落ち着いた照明に包み込まれるような空間となっていました。さらに、客間からポーチへと続き、庭を眺めると、外の白い光が庭の緑とともにやわらかく目に入り、時をゆっくりと感じさせるようでした。
家族の空間は、裕子さんのご両親が住みやすいように一部リフォームされていましたが、2階は当初のまま和室や板の間が残されていました。地下には石炭を使っていた頃のボイラーが残されており、当時はボイラーマンが住み込みで暖房を管理していたそうです。また、専属の家具職人も住み込ませるほど家具にこだわっていたそうで、驚いたことに、家具の値段と建物の総工費がほぼ同額とのことです。

 どの空間も日本人の身体サイズに合う空間であり、大空間ではないにもかかわらず、とても華やかに感じられました。それは、どこに目を移しても細部まで作り込まれた繊細な空間があったからだと思われます。個人的には、すべての箇所に面取りが施されている壁や天井の角の滑らかさが印象的でした。

 旧山口邸には2年前まで裕子さんのご両親が住んでおられたそうですが、現在は誰も使っていない状況です。裕子さんはこの建築を残していきたいと思っていらっしゃいます。文化財への登録や用途転用には、建築基準法や消防法の問題など、乗り越えなければならない問題がたくさんあるそうですが、なんとか使いながら残していく方法を模索されています。私たちもお話を伺い、都心の一等地で歴史ある建物を残していくことの難しさを痛感するとともに、なにか手段はないかと思いながら見学会を終えました。

 今回、旧山口萬吉邸を見学させていただく貴重な機会をくださった田村裕子さんに、心よりお礼申し上げます。

(事業委員会学生理事 藤井真麻)

玄関前にて、田村裕子さんによる説明を聞く

ロビーの大階段。なめらかな白壁に包まれる感覚が居心地がよい。

ポーチ。左側の客間と右側の庭を接続している。客間に対して間接的に光をとりこんでいる。

事務局夏季休暇8/1~8/20

事務局は明日土曜日(7/30)から8/21(日)まで夏季休暇となります。

遅い梅雨明けとなりましたが、これから夏本番です。
みなさま体調管理に気をつけてお過ごしください。

2016年6月25日(土) 『本庄煉瓦倉庫耐震改修工事』見学会のご報告

2016年6月25日(土)、埼玉県本庄市にて『本庄煉瓦倉庫耐震改修工事』見学会が開催されました。遠方での開催となりましたが、学生4人を含む計16人が参加しました。
この煉瓦倉庫は、明治29(1896)年、銀行が担保として繭を保管するために建設されたものであり、官営富岡製糸場の設立に伴って拡大した日本の生糸産業において重要な役割を担ってきました。現在、早稲田大学建築学科では中谷研究室をはじめとする5研究室合同で本倉庫の保存活用プロジェクトに取り組んでおり(2011年~)、早稲田建築の研究活動の先端を垣間見ることのできる見学会となったのではないでしょうか。

見学会は、中谷研究室の本橋仁助手による本プロジェクト・建築の概要解説の後、設計管理を担当されている福島加津也氏、構造設計を担当された新谷眞人先生からお話を伺い、倉庫の見学という流れで行われました。現在、工事は内装工事を残すのみとなっており、補強の仕組みを直に見取ることのできる絶好の機会でした。
福島先生、新谷先生のお話からは、この改修工事が「歴史的建造物を保存しながら活用する」という言葉を如実に表していることを強く認識させられました。従来の煉瓦造建造物の構造補強では、外部を補強して内部を保存したり、内部を補強して外部を保存したりと、表層を残そうという発想のもとで行われてきました。それに対し、本計画の構造補強では、煉瓦を構造材として科学的に生かすことに重点が置かれ、従来の構造と補強構造が互いに支え合って成り立つようにできており、そのメカニズムが模型写真や現場見学を通じてよくわかりました。こうして補強を最小限で抑えるために様々な工夫を施すことで、煉瓦造ならではの質感はもちろんのこと、繭を保存するための丁寧な換気装置や、大空間を実現させるキングポストトラスなど、当時の設計者の工夫や職人の技術を保存することが可能になっているのです。また、補強のための柱を搬入する様子を映した映像からは、ものづくりの現場ならではの高揚感を感じとることができました。

構造分野を専攻している私にとって、今回の見学会では、歴史的建造物の構造補強の最先端に触れるとともに、構造設計者の建築や社会に対する交わりの新たな側面を知ることができ、ますます構造分野への興味を掻き立てられました。
最後に、貴重な機会を与えてくださったプロジェクト関係者の方々、お話をしてくださった福島先生、新谷先生に心より感謝申し上げます。

(稲門建築会事業委員会学生理事 土岡真大)

6/3(火) 藤森照信氏特別講演の報告

 2016年6月3日(火)18時半より、早稲田キャンパス57号館にて春の大会の特別講演が行われました。参加者は学生、早稲田の先生方やOBの方々などを含め総勢約280名と盛況で、なかでも特に学生は140名以上もの大勢の参加がありました。

 今年は建築史家として近代建築史、都市計画史の大家でいらっしゃるとともに、独創的な建築家として幅広くご活躍中の藤森照信さんにお願いしました。藤森さんの著作は、わかりやすい語り口によって一般の人々にも広く愛読されています。また藤森さんは建築界に刺激を与え続ける建築家として、様々な話題作を世に送り出し続けています。
 はじめに藤森さんは、建築設計の楽しさについてお話しされました。
藤森さんは45歳の頃に建築設計を始め、お知り合いの家を設計されたり、早稲田の先生方も含む友人関係の中で建築について語り合い、設計するということを考えてきこられたとのことです。設計は必ず共同設計者と共に行い、台所など本質的に興味が持てないような部分には、一切、手をつけなかったといいます。
藤森建築の自由奔放さは、このような藤森先生ご自身の姿勢から来るのでしょうか。

 次に藤森さんは一番好きな建築と称して、ポルトガルの芸術家の家、マリの泥の大モスク、三仏寺の投入堂を立て続けに紹介されました。
どこから自然物でどこまで人工物かわからないようなこれらの建築には、自然と人工がお互いを引き立て合うような状況が生まれます。
例えば投入堂の簡素な構造フレームの中から凡庸であったはずの山々を覗くと、はじめてそこにある景色が聖地らしさを帯びて見えてくるそうです。

 そして、これらの建築群から建築を設計するための、以下の3つの指針を得ることができたとのことです。
1.素材の荒々しさをそのまま使うこと
2.特定の国の伝統を感じさせないこと
3.現代の技術は見えないところで積極的につかうこと

講演では、ここから3つの指針に基づいた藤森さんの設計の歴史を、あたかも古典落語のようにユーモアたっぷりにお話くださいました。はじめて設計された神長官守矢史料館から、新作のラ コリーナ近江八幡までのお話の中には、多種多様な登場人物とのやり取りの中で、建設や設計がすすむ様が生き生きと感じられました。

 特に、藤森さんが手がけた茶室のお話は、自宅の庭に故郷のご友人達と共に施工した高過庵に始まり、オークションで買い取られていった後、海外で偶然再会する事になったモバイルな茶室にまで、文字通り、空を飛び、世界を駆け巡るものでした。

講演で語られた藤森さんの設計行為には、素材を採集する、計画する、建築を組み立てる、使う、といったステップそれぞれにトライアンドエラーや偶然の出会いを含んでいました。その中で状況が複雑に絡み合い、ある形に落ち着いていきます。

 そのプロセスは一見、どこまで計画されていてどこから計画されていないのかわかりません。しかし藤森さんの建築は、歴史家としての目に見いだされる世界と、設計者としての手から生まれる形や状況の数々が、密接に結びつく中であらわれて来るのではないでしょうか。

 自然と人工がお互いを引き立て合うような、正に野生の建築とでも呼ぶべき姿は、やはり藤森さんだからこそ、つくり上げられるのだと感じました。
そしてその全貌を紹介して頂いた今回のシンポジウムは、とても楽しそうに語られる藤森さんの建築体験に、参加者みなが共感するような、非常に不思議な魅力を感じる講演になったと思います。

 お忙しい中貴重なお話をして頂いた藤森照信さん、そしてご参加された皆様に、心よりお礼申し上げます。

(学生委員 津島英征)

2016年7月1日 支部長会議開催

2016年7月1日(金)12:30より、理工キャンパス55号館竹内ラウンジにて支部長会議が開催されました。
稲門建築会には北海道、東北、信越、北陸、静岡、名古屋、近畿、中国、四国、九州の10支部があり、独自の活動をしていますが、年一回のこの会で一同が顔を合わせます。
稲門建築会会長、副会長はじめ総務、会員、事業、広報の各委員長、合同クラス会代表が出席し、和やかな中にも核心を突く鋭い意見が飛び交う、緊張感のある会議となりました。
会議終了後の懇親会では、全国で活躍している方たちの話題に花が咲き、たいへん盛り上がった一日でした。

5月20日(金) 2016年度第一回シンポジウム 早稲田建築の拡張ー「都市化をこえる『地方化』」のご報告

2016年5月20日(金)18時半より、早稲田大学理工キャンパスにて、シンポジウム早稲田建築の拡張「都市化をこえる『地方化』」が開催され、計62名が参加しました。
このシンポジウムは過去2回行われた中川武先生による「早稲田建築の覚醒」シリーズの続編であり、今回は中谷礼仁教授を司会進行に据え、プロパティデータバンク株式会社代表取締役社長であり芝浦工業大学客員教授である板谷敏正さん、建築巧房の代表であり福岡大学・佐賀大学の非常勤講師の高木正三郎さん、Eurekaパートナーで滋賀県立大学環境建築デザイン学科助教の永井拓生さんをパネリストとして迎えて行われました。
 第1部ではパネリストの方々によるレクチャー、第2部では中谷教授を加えて四者間での意見交換がされた上で、最後に質疑応答と言う流れで会は進み、社会人のみならず学生の参加者も意見を交わすような活気溢れるシンポジウムとなりました。

 今回は「都市化をこえる『地方化』」というテーマでしたが、まず第1部において各々のパネリストの経験に基づいたレクチャーが行われました。板谷さんは「ビジネス」という視点から、地方におけるビジネスのポテンシャルとその例を提示し、ビジネスモデルが都市よりも地方先行であることを強く語っていただきました。高木さんはものをつくる職人の技術に着目し、建築が工業化された技術だけではないことをお話しされた上で、そういった個人の職人が地方に多く存在することを示しました。永井さんは東北大震災の被災地における竹を使った会所と人との交流、さらにそこから設計者と実際に建築を使う側との意識のギャップについてお話されました。
 第2部では、それぞれのレクチャーを踏まえて各々の意見交換がなされました。一時的な補助金を当てにしない利益を生む地方のビジネス、付加価値を見出すものつくりなど、多くの可能性を持つ地方の将来やさらには建築業界での現在・将来について多くの意見が交わされ、非常に内容の濃いものとなりました。

今回のシンポジウムは、参加者にとって私たちが普段生活する都会だけでなく地方に目を向けるきっかけとなり、さらに登壇者の方々によって建築における新しい視点を与えられたまさしく「早稲田建築の覚醒」というタイトルにふさわしい会になったと思います。私自身地方に住んでいた経験がありますが、今回の講演を聞いて、そこでの取り組みやその地方だからこそのポテンシャルを知りたくなりました。
 
 お忙しい中貴重なお話をして頂いた板谷さん、高木さん、永井さん、また司会進行を務めていただいた中谷先生、そして参加者の皆様に心よりお礼申し上げます。

(稲門建築会事業委員会学生委員 添田菜月)

5月10日(火)菅順二氏 稲門建築会特別功労賞受賞記念講演会のご報告

 2016年5月10日(火)18時半より、早稲田キャンパス57号館にて菅順二さんによる講演会が行われました。参加者は学生、早稲田の先生方やOBの方々などを含め総勢190名と盛況で、なかでも特に学生は160人以上もの大勢の参加がありました。

 菅さんは早稲田大学大学院修了後竹中工務店に勤め、2011年に竣工した「明治安田生命新東陽町ビル」の設計において2014年の建築学会作品賞を受賞されるなど、これまで手掛けられた数々の作品を通じて我が国の建築界をリードする業績を残して来られました。また稲門建築会の活動においても、2009年より事業委員会副委員長を務められるなど、本会の発展向上に大きな貢献を果たしておられています。上記の受賞作をはじめとする設計の考え方の一端についてお聞かせ頂くべく、本講演会を企画致しました。

 はじめに、菅さんは「気配をつなぐ」ということをテーマとして大きく掲げ気配が空間に深みと奥行きを創り出すということを設計のポイントとして挙げられるところから講演会が始まりました。実際に菅さんが設計した建物を事例にし、色味のある壁などで空間に奥行きを出し、天窓やステンレスなどによる光の漏れや反射などで外と中との空間の連続性を出すということをお話され、特に外の気配を感じることができるようにすることに重点を置かれているという印象を受けました。

 次にオフィス建築に関する話では、省エネを中心とした環境性能への取り組みがオフィス建築に今まで以上にオフィス外へ目を向けられるようになり、「人と人」、「建築と人」、「建築と環境」に対してより開いた関係を求められるようになっていると説明され、受賞された建築である竹中工務店東京本店や明治安田生命東陽町ビルについてお話ししていただきました。
 竹中工務店東京本店のお話では、外側の窓から光を取り入れるのではなく内側にある吹き抜けによって光を取り入れ、外側の窓は夜になると内側の光を外に向けるもの、という逆の発想が興味深く印象的でした。
 明治安田生命東陽町ビルについては、空間の広がりや風の音、吹き抜け、光などを大事にし、また夜間時はガラスの透過性が増すようにすることによって全体の可視性を高めることを大事にされているとのことでした。とても大きなオフィス空間でありながら、働く人々各々がひとつの空間を共有しているという気配をつくり出すための工夫については、実際にオフィス内で撮影された動画を流していただきながらの説明で非常に分かりやすいものでした。

 最後の質疑応答の時間では、「建築を学ぶ学生の時に、心掛けておくべきことは」という質問に対し、社会で実際に働き出すと「問題解決型」で建物を建てる傾向になってしまい、学生のときのような自由な発想を忘れてしまいがちになるため、学生のうちは自由な発想力をたくさん培うことを大切にし、社会に出てもそれを忘れないようにすることが重要というアドバイスをいただきました。これは今回参加した学生にも貴重なお話でこれからの学生生活における大きなヒントになったのではないかと思います。

 今回の講演会は設計における「気配のつなぐ」ことに関しての重要性、また様々なアプローチの仕方などの設計の考え方について学ぶことができ、皆様全員に有意義な時間であったと思います。
 お忙しい中、貴重なお話をしてくださった菅順二さん、そして参加者の皆様に心よりお礼申し上げます。

(稲門建築会事業委員会学生委員 片田江宏美)

5/20(金) 2016年度第一回シンポジウム 早稲田建築の拡張ー「都市化をこえる『地方化』」知らせ

2016年度第一回シンポジウムー早稲田建築の拡張
「都市化をこえる『地方化』」

開催日時:2016年5月20日(金) 18:30~
場所:理工キャンパス57号館202教室
申込不要・入場無料

司会・進行:中谷礼仁(なかたに のりひと)
パネリスト:高木正三郎(たかぎ しょうざぶろう)
       板谷敏正(いたや としまさ)
       永井拓生(ながい たくお)


シンポジウム概要:
建築のあり方(発注システム、生産連関、作品価値)が急速に変わってきています。
早稲田建築の拡張とは、早稲田の建築がこれまで担ってきた広い民間分野での実践的立場、様々な職種の経験から、現実の建築を再定義し、さらに拡張するという意味です。
早稲田建築の可能性は、早稲田建築という物語を自ら突き動かし、新しい社会を建築的分野から語らうことに他なりません。
シリーズの第1回目は、「都市化をこえる『地方化』」と題しまして、現在進行中の国内各地域での活動に、都市化とは異なった積極的な価値付けが可能かを探ります。
建築の現実を「ていねいに把握すること」「それに関して自らの立場から提言をすること」「建築という言葉で指し示されていた対象の新しい定義」を検討していく座談会に、ぜひご参加下さい。

6/3(金) 稲門建築会春の大会 藤森照信氏 特別講演のお知らせ

2016年度 稲門建築会春の大会 特別講演
「自然を活かした建築のつくりかた」

開催日時:2016年6月3日(金) 18:15~
場所:理工キャンパス57号館202教室
申込不要・入場無料
講師:藤森照信氏

講演概要:
今年の特別講演は、建築史家として近代建築史や都市計画史の大家であるとともに、独創的な建築家として幅広くご活躍中の藤森照信氏です。
本講演におきましては、植物と建築の混然一体かつ地域の風土や気候を踏まえた実作の数々とともに、藤森流建築の誕生の裏側を存分にお話して頂きます。
建築の祖形を感じる手づくりの風合い、過去なのか未来なのか、時間軸を飛び越えてしまったような藤森ワールドに、皆様もぜひ訪れてください。

5/10(火) 菅順二氏講演会のお知らせ

2016年度 稲門建築会第1回講演会
「スペースと空間―気配をつなぐ」

開催日時:2016年5月10日(火) 18:30~
場所:理工キャンパス57号館201教室
申込不要・入場無料
講師:菅順二氏(竹中工務店執行役員設計本部長)

講演概要:
2015年の稲門建築会特別功労賞を受賞した菅順二さんの登場です。
菅さんは、2011年に竣工した「明治安田生命新東陽町ビル」の設計において2014年の建築学会作品賞を受賞されるなど、これまで手掛けられた数々の作品を通じて我が国の建築界をリードする業績を残して来られました。
また稲門建築会の活動においても、2009年より事業委員会副委員長を務められるなど、本会の発展向上に大きな貢献を果たしておられています。上記の受賞作をはじめとする設計の考え方の一端についてお聞かせ頂くべく、本講演会を企画致しました。
今回の講演は「スペースと空間ー気配をつなぐ」と題して、建築が持っている空間的な感受性について一連の作品を通してお話し頂きます。

大学は桜満開の中、2016年度開始です

満開の桜の中、新学期が始まりました。
◆今年もまた桜の大木が見事な姿を見せてくれました。

◆日頃は静かなキャンパスですが、新入生勧誘の多くの学生が集まり
 にぎやかな様相を呈しています。

◆中庭もリニューアル工事が終わり、芝生・タイル・木といろいろな顔を
 見せてくれています。

◆戸山公園の先には、住友不動産の高層ビルが建ち、51号館と両立
 しているように見えます。