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7/16 (土) 旧山口萬吉邸見学会のご報告

2016.08.02up

7月16日(土)10時半より、東京九段にある旧山口萬吉邸の見学会が行われました。学生7名、OB30名、合わせて37名の参加がありました。
旧山口邸は、稲門建築会OBの田村裕子さんのご実家であり、施主である山口萬吉氏は裕子さんの祖父にあたるそうです。今回の見学会は、このお宅で生まれ育った裕子さんに、ご家族で暮らしていた頃のエピソードとともに、建築的見どころについてお話しいただく形で進行していきました。

 旧山口邸は関東大震災後の1927年に、木子七郎氏の意匠設計、内藤多仲氏の構造設計によりつくられました。昨年見学会を行った、両者の設計による内藤多仲邸とほぼ同時期に建てられています。内藤邸同様、日本最初期の壁式鉄筋コンクリート造の住宅です。意匠設計は、木子氏の手によるスパニッシュデザインが、戸や窓、壁面など全体から、幅木や唐草模様の飾り、モザイクタイルなどの細部までに施されています。

 この建築は、地下1階から3階まであり、1・2階は家族の部屋と来客の部屋に、地下と3階は使用人と子どもの部屋となっていたそうです。1階の玄関にロビーが続き、白い大階段と噴水、上窓から差し込む光が客人を迎え入れます。そして、ロビーから客間と家族の空間へと続きます。客間は革製の椅子や細工の凝らされた木製机や鉄製のランプなどの調度品に囲まれ、落ち着いた照明に包み込まれるような空間となっていました。さらに、客間からポーチへと続き、庭を眺めると、外の白い光が庭の緑とともにやわらかく目に入り、時をゆっくりと感じさせるようでした。
家族の空間は、裕子さんのご両親が住みやすいように一部リフォームされていましたが、2階は当初のまま和室や板の間が残されていました。地下には石炭を使っていた頃のボイラーが残されており、当時はボイラーマンが住み込みで暖房を管理していたそうです。また、専属の家具職人も住み込ませるほど家具にこだわっていたそうで、驚いたことに、家具の値段と建物の総工費がほぼ同額とのことです。

 どの空間も日本人の身体サイズに合う空間であり、大空間ではないにもかかわらず、とても華やかに感じられました。それは、どこに目を移しても細部まで作り込まれた繊細な空間があったからだと思われます。個人的には、すべての箇所に面取りが施されている壁や天井の角の滑らかさが印象的でした。

 旧山口邸には2年前まで裕子さんのご両親が住んでおられたそうですが、現在は誰も使っていない状況です。裕子さんはこの建築を残していきたいと思っていらっしゃいます。文化財への登録や用途転用には、建築基準法や消防法の問題など、乗り越えなければならない問題がたくさんあるそうですが、なんとか使いながら残していく方法を模索されています。私たちもお話を伺い、都心の一等地で歴史ある建物を残していくことの難しさを痛感するとともに、なにか手段はないかと思いながら見学会を終えました。

 今回、旧山口萬吉邸を見学させていただく貴重な機会をくださった田村裕子さんに、心よりお礼申し上げます。

(事業委員会学生理事 藤井真麻)

玄関前にて、田村裕子さんによる説明を聞く

ロビーの大階段。なめらかな白壁に包まれる感覚が居心地がよい。

ポーチ。左側の客間と右側の庭を接続している。客間に対して間接的に光をとりこんでいる。